名医に聞く 健康長寿を保つための秘訣
2018年03月27日
歌人・脚本家の吉井勇が八代目桂文楽に贈った言葉にこんなものがある。「長生きも芸のうち」─。とかく不摂生になりがちな噺家が、高齢になってもなお元気に芸を磨き続けることの難しさを言い表したものだ。われわれ一般人もいつまでも元気に動き回って天寿を全うしたいものだが、そのためにはやはり日頃の摂生が肝心だ。加齢や老化に詳しい新潟大学の成田一衛・腎研究センター腎・膠原病内科学教授に「元気に長生きするための秘訣」を聞いた。
適度なカロリー制限は寿命を延ばす
──NHKテレビが「カロリー制限をすると寿命が延びる」という学説をたびたび報じています。本当なのでしょうか?
掲載写真をご覧になったことのある方も多いのではないかと思います。2009年に米サイエンス誌に掲載された2匹のサルの写真です。2匹のサルは同じ年齢で、左は食事をお腹一杯食べさせたサル、右は7歳を過ぎてから腹7分目の食事しか与えなかったサルです。
腹7分目のサルは腰も伸びているし、27歳になっても毛がフサフサしています。顔つきも精悍で、左のサルに比べると随分と若々しく見えます。
健康面についても腹7分目のサルのほうが悪性腫瘍や心血管疾患、糖尿病などの発症率が圧倒的に低いです。
このようにサルにかぎらず私たち人間も含めて、あらゆる生物は適度なカロリー制限をすることによって寿命が延びることが分かっています。
理想的なカロリー摂取量はどのくらいかというと、これには個人差があります。一般的に体重1㌔当たり35㌔㌍ほどが望ましいといわれていますが、デスクワークが多くてあまり動かない人は体重1㌔当たり30㌔㌍程度でいいでしょうし、肉体労働に従事している人などは体重1㌔当たり40㌔㌍程度でもいいと思います。
ただし、これはあくまでも健康な人の目安であって、病気の人はそれによって必要なエネルギー量が増えますから当てはまりません。たとえば熱の高い人はそれだけで余計にエネルギーを消費していますから、大目にカロリーを摂取することが望ましいといえます。
とくに寝たきりで体が弱っているお年寄りには美味しいものをたくさん食べてほしいですね。よくご高齢の患者さんから「私は何を食べたらいいですか?」と聞かれますが、
私は「好きなものを何でも食べてください」と申し上げています。
30分以上座り続けると体に悪影響
──長生きするためには運動も大切だといわれています。椅子などに長時間座っていると不健康になるという研究結果もあるそうですが。
これも学界で広く認定された研究結果です。アメリカ心臓学会は「30分以上続けて座らないほうがいい」と警告を発しています。パソコン仕事など椅子に長時間座って行う作業がありますが、30分に一度は立ち上がって歩くなどの軽い運動をすることを心掛けるといいでしょう。
長時間座りっぱなしだと善玉コレステロールが減って悪玉コレステロールが増えるほか、臓器への血流が減少したり、基礎代謝が下がって血糖値が上がったりするなどの弊害を引き起こすといわれています。
座ってじっとしているのではなく、とにかく歩いたほうが健康に良いということです。運動というとタイムを競う競技スポーツや重量を上げる激しい運動を思い浮かべるかも
しれませんが、そうではなくて普通に立って歩くという日常動作がとても大切です。
運動にしても食事にしても適度が大切ということになりますね。
──歩けない人の場合、高血圧の人のほうが予後、要するにその後の経過が良いという研究結果があるそうですが。
これは今から10年ほど前に発表された研究結果で、学界でも広く認知されている事実です。歩けない、つまり寝ている人はもともとさまざまな病気を抱えています。…続きは本誌に