「体内時計と時間薬物治療」の効用
2021年01月27日
新潟市秋葉区にある新津医療センター病院と新潟薬科大の連携による、抗がん剤を使ったがんの化学療法が成果を上げている。個々の患者の状況に応じ、体内時計による生体リズムを利用した時間薬物治療に取り組んだ結果だ。その基礎となる体内時計と時間治療について、同大の若林広行副学長に聞いた。
天に軌道のあるごとく…
昭和、平成の名作、映画「男はつらいよ」で、主人公、フーテンの寅さんによる口上にこんなのがある。「天に軌道のあるごとく、人それぞれに運命の星というものを持っております…」。人間が生まれながらに持っているのは「運命の星(干支)」だけではない。生体リズムをコントロールする「体内時計」もまた、人に備わっているという。
例えば人間の深部体温は37度あたりに保たれているが、1日のうちで1度ほどの変動幅があって、早朝は低く夕方に高くなる。血圧もそうだ。この頃「130を超えると血管リスクが…」とやたら言われるが、血圧は夜に低くなり、朝の起床前から徐々に上がり始める。
地球が自転で1回転する長さが1日約24時間だ。体内時計とは、生物が長い進化の過程で、地球の自転で生じる昼夜のリズムに順応できるよう獲得した体の仕組みのこと。人間は昼行性だから、例えば前出の血圧も、夜は心臓を休ませるために下がり、日中に活動を開始するため、朝から上がり始めるという。
人間の体内時計では、脳内のど真ん中にある視交叉上核と松果体という組織が、いわば「親時計」の役割を果たしているとされる。視交叉上核は外界の光情報に応答する組織だ。「朝日を浴びることで体内時計が正しくリズムを刻み、夜遅くまでパソコンやスマホのブルーライトを浴びていると生体リズムが狂う」と言われる。それは体内時計に光情報と関係する領域が大きく関わっているかららしい。
新潟薬科大学の若林広行副学長は臨床薬物治療学の教授だが、その専門分野の一つが「時間薬物治療と生体リズム」。県内、あるいは国内でも数少ないこの分野のエキスパートだ。
「私たちには24・5時間くらいのリズムを刻む時計が、脳のど真ん中にあります。それが体内時計(概ね24時間のリズムであることから『概日時計』ともいう)で、体内時計に関連し、薬が効く、あるいは効かない時間帯があるということが20年ほど前から分かってきていました。
欧米では科学的なエビデンスがあるものを医療に使わないと、すぐに訴えられてしまうんです。だから欧米ではクリニックレベルまで、例えば胃潰瘍の薬なら朝昼晩と飲まなくても夜だけでいいとか、時間薬物治療に基づく薬の処方が欧米ではとっくに実践されているんですね」 (若林副学長)…続きは本誌